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悪魔が来りて笛を吹く 1979年 メニューへ戻る

 「悪魔が来りて笛を吹く」は、斉藤光正監督の劇場公開作品。

 原作は無論、横溝正史の同名小説である。昭和26〜28年執筆。
 元華族の一族に秘められたいまわしい血の宿命が、連続殺人事件を引き起こす……。

 原作はかなりの長編であるが、映画は136分と言う尺の中でかなり頑張って映像化していると思う。ただ、全体としてこじんまり印象を受ける、ミステリーとして重要なキーポイントをいくつも省いている、斉藤さんの演じた美禰子や三島東太郎以外の椿邸に住むキャラクターの造形が不十分などと言った不満がある。

 それでも、原作が色んな意味で映像化の難しい作品である点を考慮すれば、金田一ブームの中で作られた作品の中では優れた部類に入るのではないかと思う。少なくとも、市川崑の後半の諸作(獄門島以降)よりは映画としてまとまっているのではないか。

 西田敏行の金田一はこれ一本きりだが、原作のイメージに結構近いキャスティングだったと言っていい。ただし、この作品については、原作で見せた金田一の名探偵ぶりがあまり見られないと言う憾みがある。

 さて、肝心の斉藤さんだが、この度パンフレットを入手して読んだところ、彼女の扱いは完全にヒロインで、名実共に主演女優と言っていいくらいだった。一応、形式的には鰐淵晴子が主演女優と言うことになるのだろうが、彼女の影は極めて薄い。監督の斉藤光正氏は、それまでにも斉藤さんをドラマで撮っているが、その過程で特に彼女を気に入り、監督の権限で彼女を推挽したのではないかと勘繰ってしまうほど、斉藤さんの見せ場が多い。

 なお、ここではあくまで斉藤さんを中心に紹介していくので、ストーリーについてはあまり詳しくは説明しない。人間関係が複雑なので、予備知識なしに見ても良く分からないと思うが、そう言う人には原作を読むことをおすすめする。

 以下、便宜上いくつかの場面に区切ってある。

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 ※09以降には、ネタバレがあります。それ以外にもネタバレになってる記述があります。要注意。
 冒頭、廃墟のような教会での印象的なシーンを経てから、オープニング。
 この曲もタイトルバックもかなり良い出来で、作品世界にひきこまれる。
 ちなみにタイトルにもなっている象徴的なフルート曲を吹いているのは、かつて横溝正史の近所でフルートの練習をしていた植村氏である。彼の吹いていた曲が、小説のトリックのきっかけとなったのはファンの間では有名。

 斉藤さんは西田敏行の次、鰐淵、宮内両氏と同じ画面にクレジットされている。
 原作では、(天銀堂事件の描写の後)斉藤さん演じる美禰子が金田一の居候している松月と言う待合旅館を事件の依頼で訪れるシーンから始まるが、映画では(青木ヶ原樹海で椿元子爵の死体が発見されるシーンを置いてから)警察署での、金田一と等々力警部(夏木勲)との会話から。

 等々力警部は、天銀堂で起きた凄惨な毒殺事件のこと、その容疑者にされたひとり、椿元子爵がその後自殺したこと、さらに死んだ筈の子爵を家族が目撃していることなどを話す。

 この天銀堂事件は、無論、実際に起きた「帝銀事件」をモデルにされている。椿元子爵の自殺も、当時、実際に斜陽貴族が自殺したと言うニュースがヒントになっている。
 で、早速椿邸にやってきた金田一。なかなか不気味で雰囲気のある建物だ。

 映画では、すぐ美禰子との会話のシーンになるが、パンフレットには、美禰子の伯父・新宮利彦が木に縛られた犬をいじめているようなシーンのスチールがあり、実際はそのシーンがこの間にあったのではないかと思う。金田一が屋敷に入る前にそういう情景を見て、そこへ美禰子がやってくる、そういう段取りだったのではないか。犬をいじめるのは、原作でも(ある人物の語る)新宮利彦の歪んだ性格を現わす挿話として出てくるので、可能性は高い。
  
 それはさておき、ここで斉藤さんが登場。彼女は亡くなった椿元子爵の娘である。原作では19歳だったが、撮影当時、斉藤さんは17歳か。
 美禰子「あたくし、美禰子と申します」
  
 いかにも育ちが良さそうに、丁寧にお辞儀をする。
 美禰子「実は家族に内緒で等々力警部さんに誰かご信頼できるお方をとお願いしたのはあたくしなんです……なんだかうちの中が落ち着かないものですから」
  
 金田一の視線を辿ると、彼女と父親の英輔(仲谷昇)が映っている写真が飾ってある。
 英輔はこの屋敷で孤立していて、唯一、美禰子とは仲が良かった。

 美禰子「一年ほど前の、父との思い出です」
 金田一「お父さん……」
 金田一の声に弾かれたように振り向く美禰子。
 金田一「亡くなられたんでしょう?」
 美禰子「はい、青木ヶ原の樹海で……死後三ヶ月とのことでした……十日前にあたくしがさきほどの伯父と参りまして埋葬してきたんです……でも……つい最近こんな遺書が見付かったんです。ご覧なってください。あたくしの本の間に挟んであったんで今まで気付かなかったんですけど」

 美禰子の台詞の中に出てくる「さきほどの」と言うフレーズに注目。あたかも金田一がこの場面の前に伯父(新宮利彦)と顔をあわせているようではあるが、見てきたように劇中にはそう言うシーンは存在しない。繰り返しになるが、前述した犬をいじめているスチールには、金田一の姿も見えるので、実際は使われていなかったそのシーンで、金田一と新宮とが顔を合わせていたとすれば、美禰子の「さきほどの」と言う台詞にも納得が行く。
 渡された遺書を読む金田一。これはかなり重要な文章なのだが、何故か観客にはその全文をきっちり見せてくれない。ただし、原作の遺書の文面とは多少異なるようである。
 鬱蒼とした庭に出て話の続きをしているふたり。
 美禰子「『美禰子よ、父はこれ以上の屈辱に耐えて生きていくことが出来ない。先立つ父を許せ……』あたくし、何度も何度も読みました」
 金田一「悪魔……悪魔なんて言葉、普通は滅多に使わないモンですがねえ」
 美禰子「あたくし、思うんですけど……警察に密告した人のことを言うんじゃないでしょうか」
 金田一「密告?」
 美禰子「警察から返された晩、父はあたくしだけに言ったんです。このうちの誰かが天銀堂事件の犯人だと密告したんだって……先生、あの遺書はどんな意味を持ってるんでしょうか」

 彼らが遺書の内容について検討するは原作どおり。ただ、「悪魔」のことばかり話題にして、「屈辱」についての考察が抜けているのが気になる。彼らは「屈辱」=「天銀堂事件で容疑者にされたこと」だという前提で話しているのだろうが。

 そこへ美禰子の母・アキ子(鰐淵晴子)付きのばあや・信乃が通り掛かる。
  
 演じているのは老けメイクをした原知佐子。管理人は「赤い衝撃」でよく見知っている筈だったが、最近まで彼女だと気付かなかった。原作ではもっと年寄りで、醜い顔をしているイメージ。

 美禰子「信乃さん……あなたも三日前東劇で父を見たって言ってたわね……信乃さんと言って子供のときからずっと母の面倒を……」
 信乃「40年でございます。アキ子お嬢様には40年お仕え申しております」
 彼女は美禰子の問いには答えず、すたすたと向こうへ立ち去ってしまう。
 美禰子(優しい声で)「根はいい人なんですよ……」
 彼女と入れ替わりに、女中のお種(二木てるみ)が食事だと知らせに来る。
 彼女は原作では単なる奉公人だが、映画では影のヒロインとも言うべき重要な役になっている。原作では苗字は出てこないが、映画では三島東太郎の妹になっているので、三島種(子?)になるわけだ。

 美禰子「お種さん、あなたも東劇で父を見たんだったわね」
 金田一「初めに誰が気が付いたんですか」
 お種「はい、初めは菊江さまです。お芝居が終わって奥様と、信乃さまと、四人で廊下へ出たら、菊江様がびっくりなさったんです。そしたら、ちょうど旦那様が階段から降りてらっしゃるところでした。菊江様が声をかけようとなさったら、くるりと後ろを向いて人込みの中に入っていかれました」

 菊江と言うのは、アキ子の伯父で、同居している玉虫伯爵のメカケである。金田一はここへは初めて来たので、知らない名前が出てくるといちいち美禰子が注釈を加えているが、何故か菊江については金田一は聞き返さない。例のスチールには、新宮と金田一と、それから菊江(池波志乃)の姿もあるので、(脚本上は)既に菊江とは面識があったのだろう。
 金田一「追いかけなかったんですか」
 お種「はい」
 金田一「どうして?」
 お種「奥様が気を失いになったので」

 なお、斉藤さんの美禰子は、容姿や雰囲気は原作に近いが、やや性格が明る過ぎるようである。原作では金田一から暗い影をまとったウィッチ(魔女)のようだとひどいことを言われているが、この映画の美禰子は時折物思いに耽ることはあるけれど、ハキハキした普通の女の子である。また、原作では貴族の娘らしい気位の高い言動も多少見られるが、映画では全くそういう雰囲気はない。

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 椿邸での夕食。
 遅れてやってきたアキ子に、美禰子が金田一を紹介する。
 美禰子「お母様、ご紹介します。こちら、金田一先生」
 アキ子「ごきげんよう」
 金田一「はぁ……」見惚れて柱に頭をぶつける。
 アキ子を演じるのは鰐淵晴子。年齢的にも雰囲気的にも、原作のイメージに近いほうだろう。ただ、監督が斉藤さんに夢中だったためか、出番は少ない。

 それと、美禰子は原作では自分の母親のことをあまりに綺麗で若々しくてお嬢様育ちなのを嫌っていて、よそよそしい態度なのだが、映画では特にそう言う拘りは見せない。ただし、母親が目賀博士と男女関係にあることを不潔だと思って悲しむ描写は後で出てくる。
 そこへ居候の癖に態度のでかい玉虫元伯爵がやってくる。演じるのは金田一作品でも色んな役を演じている小沢栄太郎。甲高い声で話す豪快な老貴族と言う感じ。

 原作では、最初金田一は一彦(新宮利彦の長男、映画ではカット)の先輩と言う肩書きで占いの席(椿英輔が生きてるのかどうかを占うための)に参加することになっているが、映画では美禰子がどういう説明をしたのか、最初から探偵として紹介されている。

 目賀博士は、アキ子の主治医と言う肩書きで屋敷に同居しているのだが、実際はアキ子の性欲を満たすための愛人である。原作ではかなり強烈なキャラだが、映画では極めて影が薄い。演じているのは山本麟一。
 家族とは別に台所で食事をしていた菊江とお種のところへ美禰子がやってくる。
 美禰子「お種さん、あった?」
 お種「はい、ありました」
 と、懐中電灯を見せる。
 美禰子「菊江さん、お早く、ご一緒しましょ」
 菊江「はいはい」

 占いは6時半から7時まで停電の間に行うので、懐中電灯が必要なのだ。当時は電力不足のため、地域ごとに時間を決めて計画停電と言うものが行われていたらしい。

 しかし、ここでの短い会話でも、美禰子は使用人であるお種に対して「さん」付けして、まるで友達のような口の利き方をしているのが、少し気になる。彼女はなんといっても、この家の令嬢なのだから、「お種」と呼び捨てにした方が合っている。菊江に対してもわだかまりのない態度を見せているが、原作ではメカケの彼女のことを明らかに嫌ってるんだけどね。
  
 で、占いのシーンになるのだが、具体的にどういう由来のある占いなのか、説明は一切ないので、予備知識無しに見ていたら何がなんだかさっぱり分からないのではないか。

 原作ではここで、金田一が菊江や三島東太郎の指が欠けていることに気付く、ミステリーとしては外せない伏線があるのだが、映画ではそのトリックを完全に削っているので、当然そう言うシーンはない。まあ、指の欠損は映像化作品ではちょっとやりにくいのは分かるけど、テレビ版の横溝正史シリーズでもちゃんと映像化していたことを思うと、やってやれないことはなかっただろう。
 
 やがて、垂らした円錐の先が、砂の上に何か模様を描き出す。
 原作ではホームライトが消え、映画では蝋燭がゆらめいて一瞬室内が暗闇に包まれる。

 で、灯りがつくと、砂の上に火炎太鼓のような模様が描かれている。原作では実際に金田一が「火炎太鼓みたいだ」などと言うのだが、映画では省略。何故か、人々はそれを見て恐れおののき、とりわけアキ子は身も世もなく怯えている。

 これは、ネタ晴らしをすると犯人がトリックで作った模様なのだが、原作を読んでもちょっと無理っぽい芸当なのだが、映画でもその辺は似たようなものだ。
 で、7時を過ぎると、どこからかフルートの音が聞こえてくる。この曲についても、映画ではさらっと触れているだけだが、原作ではもっと含意を込めて丁寧に解説されている。まあ、原作のフルートに関するトリック(?)を映画では端折っているので、この曲(悪魔が来りて笛を吹く)の扱いも、自然、小さくなったのだろう。

 亡夫の作曲した曲を聞いて、ますます怯えるアキ子。金田一、美禰子、三島東太郎の三人は音の出所を探しに部屋を飛び出す。
 こういう時、ちゃんとスカートの裾をつまんで走るのが華族のお嬢様らしいところ。ま、華族じゃなくても同じか。
  
 二階の椿英輔の書斎から聞こえるそのフルートは、蓄音機のレコードから流れていたものだった。
 金田一はイタズラだったと、ふたりをすぐ階下へ行かせるが、原作では、美禰子とかなり長く会話をする。ここで、金田一が停電を利用して誰でもレコードを仕掛けられたこと、仕掛けた者の意図、火炎太鼓の模様のこと、「悪魔が来りて笛を吹く」と言うレコードについての疑問などを名探偵っぽく口にするのだが、映画ではバッサリとカットされていて、横溝ファンとしては大いに不満だ。

 そこへ美禰子がやってきて、アキ子の具合が悪くなったので引き取ってくれと金田一に言う。
 ここで、原作同様、金田一の帽子探しが始まる。
 ここでもしっかり裾をつまんでいる斉藤さん。
 美禰子「お種さん、お種さん! お種さーん」
 三島「はい」
 美禰子「三島さんあなたでもいいわ、金田一先生のお帽子……」
 金田一「僕の帽子、どっかへ行っちゃったんですけどねえ」

 帽子は、占いをした部屋の外に置いてあるばかでかい花瓶の上に掛けてあった。それを三島が取ろうとした際に裏地が引っ掛かって破けてしまう。あれこれ騒いでいると、まだ部屋にいた玉虫伯爵が「うるさい」と怒る。菊江が飛び込んであれこれと玉虫をなだめる。
  
 美禰子は、そんな様子を金田一の目から隠すように、すぐ扉を閉ざしてしまう。
 少し悲しそうに目を伏せてから、微かに潤んだ瞳で金田一を見詰める。うう、たまりませんね。
  
 金田一「失礼します」
 美禰子「あっお履物……」
 金田一「あ、大丈夫です……どうも、お休みなさい」
 深々と頭を下げて見送るふたり。
 美禰子は自分の部屋に戻ろうと階段を昇りかけるが、ふと、手摺に彫られている笛を吹く天使(?)に目を留める。
  
 かがんで、その笛を指先でなぞる美禰子。ストーリー上は何の必要もないのだが、斉藤さんファンにとっては重要なカットである。

 なお、池波志乃演じる菊江だが、原作のイメージとはだいぶ違うことを一言言っておく。もっと美麗で謎めいて、コケティッシュで賢い、スレンダーな美女なのである。それでいて、女らしい一途さも持った女性なのだ。映画のキャラクターは、あまりにがさつである。そう言う意味では、横溝正史シリーズの中山麻理の方が正しい。

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 居候している松月と言う連れ込み宿(?)へ帰ってくる金田一。原作では、そういうところへ美禰子のようなうら若い女性がやってくるのは気まずいと言うような描写があるが、映画の松月は、それほどいかがわしい場所でもなさそうだ。
 風間「待ってたぞ、名探偵」
 そこのオーナーである、闇屋の風間俊六を演じるのは梅宮兄貴。梅宮辰夫は芝居が下手だなぁといつも思っていたが、この役だけは妙にうまいのだ。

 風間俊六は原作では金田一の先輩で、土建屋の社長である。松月のオーナーでもあるのだが、原作には確か風間自身は出てこなかった気がする。

 金田一「またそれを言う」
 風間「いいじゃねえか。俺はな金田一耕助と言うのは明智小五郎より名探偵だと思っている!」
 アットホームな雰囲気の中、風間の口から玉虫伯爵についての情報が語られる。風間の女房として敏江と言う女性が出てくるが、演じているのは浜木綿子。原作にも似たような女性は出てくるが、風間の愛人の一人と言う位置付けである。

 一方の椿邸。

 思い思いに夜を過ごす登場人物たちの様子がスケッチされる。
  
 美禰子は自室で物思いに耽り、父の写真を見詰めたりする。
 その後、母のアキ子が信乃に送り出されて、目賀博士のところへセックスしに行くのを見て、
 たまらなくなったように走り出す。
 階段を昇って行く彼女の様子を三島が怪訝そうに見ている。
  
 部屋に駆け込むと、倒れるようにベッドに顔を伏せる美禰子。
 美禰子「お父様……」
 切り返しでは、彼女の口が「お父様」と言うように動くのだが、声は聞こえない。

 さて、翌日早朝、警察から金田一のところへ電話がかかり、殺人事件が発生したことを知らせる。金田一は屋敷へ飛んで行く。
 殺されたのは玉虫伯爵で、顔を殴られたうえ、絞殺されていた。あの占いの部屋で、しかも密室状態だった。ただし、扉の上の小窓は開いているので、準密室状態と言うべきか。
 ちなみに、等々力警部の部下として、三谷昇が顔を出している。彼も金田一関連作品にちょこちょこ出てくる俳優さんだ。ただ、この映画ではほんの端役である。

 家族を集めて事件当時のアリバイなどを尋ねる等々力警部。
 等々力「で、お嬢さんは、ご自分の部屋でずっと本を読んでおられた」
 美禰子「はい」
 昨日、彼女の姿を見ている三島東太郎は、その言葉に少し表情を変える。

 三島を演じる宮内淳はのちに、斉藤さんが当時出演していた「ゆうひが丘の総理大臣」の後番組、「あさひが丘の大統領」の主役を務める。ただ、「あさひが丘」には斉藤さんは出ていないので、そちらでは共演していない。

 それにしても濃い顔だな。
 ここまで来ると、むしろ清々しい。
  
 何か感じるところがあるのか、金田一も美禰子の方をちょっと見遣る。
 玉虫伯爵のことについて楽しそうに話す菊江。さすがに彼が殺された直後だと言うのに、その笑顔はまずいのでは?

 関係ないが、手前で爪を噛んでいる新宮華子(村松英子)が可愛いのである。

 原作では、華子は屋敷の中で美禰子が信頼している数少ない人物の一人なのだが、映画ではアンニュイな雰囲気を漂わせて、何も考えていない貴族っぽいキャラクターになっている。夫の新宮利彦は、原作ではダメ人間としての描写が精彩を放っていて、横溝正史の描くキャラクターのなかでも出色だと思うが、映画ではほとんど何の個性もない。

 さて、その流れで、菊江が語る形で前夜の事件の様子が描写される。いつまで経っても寝所に来ない玉虫伯爵を心配して、菊江が占いの部屋に行くと、鍵穴から玉虫が倒れているのが見え、しかも中から閂がかかっている。彼女が騒いで、家族がゾロゾロとやってくる。
 美禰子「大伯父様ーっ、ドアをお開けになってーっ」
 斉藤さんの声がちょっとうるさい。

 三島がドアを破り、みんな一緒に入るが、玉虫の死体だけで、犯人の姿はなかった。
 この密室トリックは、トリックとしては三流かもしれないが、蓋然性と言う意味ではかなりリアリティのある方法だと、自分は高く評価してるんだけどね。トリックのためのトリックではなく、必然的にそうなってしまったと言う意味でも。

 その後、屋敷内の防空壕から天銀堂事件で盗まれた宝石が発見され、天銀堂事件との関わりも取り沙汰される。
 原作ではこの防空壕は、他にも犯人が密告状をタイプライターで打つ時に使ったり、孤独な美禰子がその中で瞑想に耽ったりと、重要な場所なのだが、映画では登場すらしない。

 密告状を打ったタイプライターについても、原作では紙幅を割いて語られているが、映画では一切カット。

 食堂に残った金田一と美禰子の会話。

 美禰子「先生、あたくし、本を読んでたなんて嘘です! ほんとうは……」
 金田一「いやっ」
  
 遮られて少し驚く美禰子。
 金田一「分かってます。大変言い難いことなんでしょう? しかも事件に関係のないことなんでしょう? 分かってます」

 何が分かっているのか良く分からないが、美禰子の口から説明させたくない金田一の優しさ。
 その後、自分たちの部屋にいる新宮夫婦の様子。
 華子「あなた、刑事さんたちの動きが何か異常ですよ」

 この、村松英子の独特の喋り方は耳に残る。ストーリー的にはあっても無くても同じなんだけど。
  
 再び金田一と美禰子。殺人現場で、昨夜飾られてあった雷神像をしげしげと見詰めている金田一。

 金田一「これだったかな……やっぱりどっか……昨夜とは違う感じがするなぁ美禰子さん」
 美禰子「でも、そんな筈はございませんわ。だって今はひとつしかないんですもの」
 金田一「は、じゃあ二つあったんですか」
 美禰子「元々あれは風神雷神と一対になってるものなんですけれど、風神のほうがなくなってしまったんです……たぶん、空き巣に入られたんだと思いますけど」

 金田一は美禰子を廊下に連れ出す。
  
 金田一「いつ頃なくなったんです?」
 美禰子「それが、はっきりしなくて」

 そこへ菊江がやってきて、金田一を自分の部屋に引っ張り込む。
 その中で、菊江が新宮利彦のことを「見栄っ張りのゲス野郎」と評したり、アキ子と目賀が男女の関係であることなどを金田一に教える。細かいことだが、二人の間を玉虫伯爵が公認していたとも知らせる。ただ、映画では椿英輔失踪前から浮気をしていたと言わせているが、原作では一応、英輔の死後からだったと思うが。

 その後、庭に一同を集め、等々力警部が証言をするよう迫る。それは、信乃が昨夜、椿子爵らしい男の姿を目撃したと言うことだった。
 ここでは、仲谷昇以外に、悪魔をイメージした人形(だと思うが)も使われている。

 パンフレットには、西田敏行、斉藤さん、悪魔人形の三人が仲良く映っているスチールも見られる。

 その話を聞いて、アキ子が恐怖のあまり気を失って邸内に運び込まれる。
 等々力警部「椿子爵はやはり生きてる……」

 なお、DVD収録のスチールには、この庭で、自分の体のアザを見せている新宮利彦、と言うのがあるが、本編には見られない。ストーリー上、重要なシーンだと思うのだが……。

 ただ、このアザが遺伝すると言う設定は、原作の本格ミステリーとしての最大の弱点で、個人的には敢えてクローズアップされないで良かったと思う。

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 自分の部屋……ちゃんと金払って下宿しているのか、居候を決め込んでいるのか定かではないが、金田一は事件のことについてあれこれ考えている。
  
 そこへ敏江が入ってきて、にこやかに手招きしたかと思うと、思いっきり金田一の頭をはたく。
 金田一「あいたぁ〜」
 敏江「お客様ぁ、さあどうぞどうぞ、どうぞっほっほっほっ」(金田一に舌を見せてから)「どうぞごゆっくり、どうぞどうぞ」
 金田一「いや、よく来てくれました、どうもありがとう、どうぞどうぞ」

 お客とは美禰子のことで、金田一が須磨へ立つ前に訪れるのも原作どおりだ。
 しかし、なんで敏江は金田一の頭を叩いたのか、良く分からないのである。まあ、女性のお客が来たのだから、シャキッとしろと言うことだったのだろう。
 金田一は蓄音機で「悪魔が来りて〜」のレコードを聴いていたのだが、美禰子の顔を見て慌てて停める。

 金田一「いやぁもう2年ぐらい掃除してないですかねえ。いやほんとに狭くてね、いやになっちゃった、ははっ」
 美禰子はにこりともせず、
 「先生、父の遺書のことですが、あたくしどうやらとんでもない思い違いをしていたようなんです。それで何がなんだか分からなくなってしまって……」
 持ってきた本を開いて、
 美禰子「この本はこの前お話したように、つい最近書庫のお掃除をしたとき偶然に見付けたんですが、この遺書はこんな風にして入ってたんです……でも、ふと思い付いたんですが、あたくしの日記にこんなことが書いてあるんです」
  
 美禰子は本に続いて赤い表紙の日記帳も取り出して、ぱらぱらとめくり、
 「10月13日朝、やっと『ウィルヘルム・マイステル』を読了。夜、思い立って机を整理、本を書庫にしまう」
 日記の該当部分を読み上げる。

 この日記の記述は原作とほぼ同じだ。

 美禰子「おかしいとは思いになりません?」
 金田一「なにがですか」
 美禰子「天銀堂事件が起こったのは10月15日なんです」
 金田一「確かに10月15日でしたよね」
 美禰子「でも、その二日前、10月13日の夜に、あたくしはこの本を書庫の奥にしまってるんです!」
 金田一「二日前……」

 ここの金田一は原作と違い、かなり鈍いのである。
 金田一「たあぁーっ」
 美禰子「そうなんです先生。父がわざわざ見付かりにくい書庫の奥に遺書を残したなんてとても考えられません!」
 金田一「つまり、お父様がこの遺書を本の間に挟んだのは、あなたがゲーテを読み終わって書庫にしまうまでの間、つまり13日の午後!」
 美禰子「そうです。その時ならこの本は机に出しっぱなしにしてありました」
  
 金田一「美禰子さん! 美禰子さん、美禰子さん、美禰子さん、美禰子さん! あなた大変な発見なさいましたね!」
 美禰子「どういうことなんでしょう、一体?」
 金田一「つまり、僕は、いや僕たちは天銀堂事件の容疑者にされた不名誉を恥じて椿さんは自殺なさったのだと思い込んでました。しかし天銀堂事件の前に既に遺書は書かれていた。つまり椿さんの自殺と、天銀堂事件は全く無関係なんですよ!」
 美禰子「では、父は何故?」
 金田一「わかりません! わかりませんが……」
 もう一度遺書を読み返す金田一。
 金田一「悪魔……悪魔の紋章」
 原作では、「悪魔の紋章」と言うのは、自殺した椿子爵のメモ帳にそう書いてあったと美禰子が金田一に話すことになっている。

 このシーンは、細かい日付の検証などがいかにもミステリーっぽくて、好きである。ただし原作では、天銀堂事件の起こった日ではなく、子爵が警察に引っ張られる直前に遺書を本に挟んだと言うもっと微妙なタイミングになっていた。
  
 警察で、部下にテキパキと指示を出す等々力警部。やっぱり、夏(八)木勲はいい役者だったなぁ。

 そこへ金田一がやってきて、椿子爵を密告した電話のこと、椿のアリバイのことなど訊ねる。
 原作では、タイプライターによる密告状だったが、映画では電話だったな、そう言えば。

 警部によれば子爵は、事件当時は、須磨へ旅行へ行っていたと言う。一応裏は取っていたが、警部はそれも何かからくりがあるのではないかと疑っていた。

 最後に金田一は美禰子から正式に事件の調査を依頼されたと報告する。

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 椿邸の温室。三島が食虫植物に虫を食べさせている。

 原作では、「蜘蛛」と「橋」の発音が伏線として出てくるが、活字メディアでその伏線はちょっとどうかと思うので、映画ではスルーされていたのは横溝正史の名誉の為にむしろ良かった。
  
 原作とは違い、三島は蘭を育ててそれを売ることで、家計の足しにしていることになっている。

 三島「そうでもして贅沢なものを口に入れないと、なにしろみなさん、上流階級の方ばかりですから」

 三島は自分のことを、父親が椿英輔の当番兵をしていて、それが縁で妹ともどもここで働くようになったと説明している。
原作でも、だいたい似たような感じだったと思うが、ただ、上記の場合だと椿英輔が軍人だったとしか解釈できないが、勲功華族ではなく、家柄華族の英輔が、そう言う例はないことはないが、軍人だったと言うのはちょっと腑に落ちない。それに英輔は(原作では)世俗離れした音楽家と言う印象なので、なおさら違和感を覚える。

 金田一「あ、お嬢さん誉めてましたよ。三島くんがいるんで助かるって。さもないとこのうちはやってけないって……ああ、美禰子さんサツマイモが大好きなんですってねえ、うふふふっ、元子爵のお嬢さんにイモ、なんとなく妙な取り合わせですねハハハハハッ……よく買出しなんか行かれるんでしょう? 去年の10月15日も確か、千葉の方へ買出しに行ってますねえ……お嬢さん日記に書いてるんですよ。『三島くんのおイモを期待してたけど、手ぶらでがっかり』……なぁーんて書いてあるんです、うはははっ……あの人は美しい目をしてますねえ、ああいう目ってのはこう何て言うのか……千葉のどこ行ったんですか……三島さん、あなたあの日、ほんとは買出しには行かなかったんじゃないですか?」

 面倒なので金田一の台詞だけ抜き出したが、この辺は愛想良く話しかけながら相手の懐に入って情報を聞き出してしまう原作の金田一っぽさが良く再現されている。やっぱり西田敏行はうまい。

 三島「確かに、行きませんでした」
 金田一「どこに、行ったんですか」
 三島「金田一さんこれから僕が話すことは誰にも絶対に秘密にしてくれますか? 10月15日は僕は旦那様に頼まれて須磨にお供したんです」
 金田一「椿さん何しに行ったんですか?」
 三島「知りません……ご承知のように旦那様は子供のような方ですから、到底お一人で長い旅行なんかできるはずありません。是非、僕についてきて欲しいと仰って……旦那様の帰りの切符の手配をするとその晩の夜行で東京へ帰ってきたんです」

 原作では、椿英輔はひとりで須磨へ行った筈だ。
 そこへ、美禰子の声が飛んでくる。
 美禰子「三島さん、何故黙ってたの? 何故黙ってたの三島さん!」
 胸のぽっちりが悩ましい斉藤さん。
 美禰子「三島さん! あなた、何故黙ってらしたの?」
 三島「申し訳ございません。このことは誰にも言うなと、旦那様から固く口止めされておりましたので」
 美禰子「でも、でもこんな時は! 言って下さった方が……」
 三島「すいません」
 泣かんばかりにして三島に詰め寄る美禰子。斉藤さんの熱演が光ります。

 なお原作では三島は、金田一に対し、椿から宝石を売る相談をされたと話している。原作では(アキ子の)宝石がストーリーの重要なアイテムになっているのだが、映画ではそれもほとんど無視されている。
  
 その場を去ろうとした金田一を美禰子が鋭く呼びとめる。
 美禰子「金田一先生! 先生……」
 美禰子「あたくし、須磨へ行きます。連れてってください……」

 こうして、金田一の須磨行き(椿英輔の足取りを調べるため)に、美禰子も同行することになる。何故か三島も。

 須磨への切符をたちまち入手してくれるのは三島ではなく、闇屋の風間である。金田一が東京を立つ前、椿英輔にそっくりの闇屋がいると聞き、風間にその男を見付けてくれるよう頼む金田一。

 この、天銀堂事件の容疑者のモンタージュ写真が、全国の似たような風貌の人間を集める役割を果たしたと言うひとつのアイデアも、映画ではほとんど活かされていない。

 原作では、金田一は出川刑事(横溝正史シリーズ版ではモロボシダンが演じていた)と一緒に行くことになっている。斉藤さんが関西ロケへ参加することになったため、ますます斉藤さんの出番が増えてしまった。原作ではそれと並行して、東京に残った美禰子たちに不可解な事件が起こるのだが、映画では美禰子が旅行へ行ってしまったため、比重がそちらに傾いてしまった。

 金田一不在の椿邸の人々の描写はなかなか面白いのだが、それらもほぼカットされているのが残念だ。
 ちなみに遙か後の稲垣吾郎版でも、美禰子(国仲涼子)は金田一と一緒に関西へ行っている。

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 汽車での移動は省いて、いきなり空撮による須磨の様子から。
 原作どおり、英輔が泊まった三春園へやってくる三人。
  
 斉藤監督の趣味なのか、ここでも物思いに耽りつつ宿に入る美禰子のカットがある。

 ちなみに旅館の女将は中村玉緒。横溝シリーズ版の三崎千恵子よりは適役である。そのかわり、可愛い女中さんは登場しない。何故ならもっと可愛い斉藤さんがいるからだ!(何を言うとるんだお前は)
 金田一「風呂か、じゃあなにはともあれ垢でも落としますか、ねえ、ハイ……ははっ、似合うなぁははっ」
 言いながら、ふざけて美禰子の頭にお釜帽子を被せる金田一。

 金田一は三島も風呂に誘うが、三島は風邪気味だと遠慮する。これは、実は伏線なのだ。
 次のカットではいきなり全裸の西田敏行の尻と股間が観客の視界を直撃する。
 ここ、チンコが見えてるんじゃないかと思うが、まあ、当然前貼りをして撮影してるから、大丈夫だろう。

 ところで、監督、我々が見たかったのは西田敏行の尻ではなく、斉藤さんのお尻だったんですが……

 まあ、清純派まっしぐらの斉藤さんでは、さすがに無理か。

 金田一は浴槽に飛び込んで先客の怒りを買う。この辺の子供じみた行動は原作の金田一とは遠い。
 で、その先客が等々力警部が派遣した山下刑事(藤巻潤)なのだった。

 当然、合流する四人。
 椿の旅行のことを今まで黙っていたと言うことで、山下刑事にこっぴどく叱られる三島さん。

 淳(ジュン)を叱る潤(ジュン)……なんでもないです。

 しかし、椿英輔は最終的に須磨行きは警察に行って、確認のために宿のことも話した筈なので、刑事がそんなに怒るのはちょっと解せない。椿がここへ来て、どこへ行ったのかを三島が知っていて隠していたのなら別だが。

 金田一「それで、ここへ来てからの椿さんの足取りはつかめたんですか」
 山下「彼は15日の晩に着いて、あくる16日朝早くから出かけて夜遅くに帰りましたが、その間どこ行ったのかさっぱり分かりません……」
  
 美禰子「あのう……」
 後ろから恐る恐ると言う感じで切り出す美禰子。
 「玉虫大伯父様の別荘へ行ったんじゃないでしょうか?」

 ここ、疲れて肌が荒れているのか、斉藤さんの化粧のノリが悪い。

 金田一「別荘?」
 山下「丸焼けで何も残ってませんよ」
 金田一「とにかく、行ってみましょうよ」
 で、全員で廃墟のような別荘跡へ来るのだが、キャプでは真っ暗で全然分からんな。
 ここは無論セットである。
 美禰子「子供の頃、良く連れてきて貰ったんです……毎年、夏休みになるのが待遠しくって……この桜、とっても綺麗だったなぁ」

 イメージ的に、当時の華やかなパーティーの様子が映し出される。玉虫以下、アキ子や利彦、華子、英輔、幼い美禰子の姿などが見える。

 原作でも、この別荘は出てくるが、こちらは玉虫以下、結婚前のアキ子や利彦たちが休みの時に訪れるだけで、美禰子は来たことはなかったと思う。
  
 と、不意に美禰子が金切り声を上げる。
 美禰子「先生! ここに、ここに……父の字です」

 焼け残った石灯籠に、「悪魔、ここに誕生す」と意味ありげな文句が彫ってある。

 宿に戻った金田一たち。
  
 ここでも、特に意味もなく美禰子の映像が挿入される。
 男たち三人は布団を並べて隣の部屋。

 三島は玉虫の初七日の準備があるので明日帰ると言う。何故か、刑事も明日帰ってしまうらしい。金田一は予定を聞かれて、「さっき聞いたハラボテ女の父親の所在を確かめる」うんぬんと答えているが、本編ではそれらしいやりとり(中村玉緒とだろう)がカットされているので、観客はちょっとまごついてしまう。これは、玉虫別荘に出入りしていた植木屋の娘が、誰かに子供を孕まされたと言う逸話のことである。

 この辺、原作でもかなり人間関係が入り組んでいて、しかも紛らわしい名前が出てくるので頭がこんがらがる箇所なのだが、映画では多少省略化しているものの、このようにザクザクッとカットしているので、原作を知らないで見た観客は、ほんっっっっとに何がなんだがサッパリ分からなかったと思う。

 三島が最後に「僕、金田一さんと知り合いになれて、ほんとに良かったと思ってますよ」と言う台詞がちょっと泣かせる。

 さらにその後、美禰子の独白「お父様、何があったの?」

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 金田一は「悪魔」の正体を突き止めるため、情報収集にいそしむ。

 まず、玉虫別荘に出入りしていた植木屋の辰五郎について。
  
 老婦人が縁側に座り、子猫を弄びながらペラペラと話してくれる。ただし、専ら尋ねているのは金田一で、美禰子の台詞はひとつもない。

 この辺も、原作ではもっと入り組んでいるのだが、映画ではかなり簡略化されている。と言っても、辰五郎、その娘の妙子、妙子が玉虫別荘で誰かに妊娠させられて産んだ治雄、辰五郎のメカケのおたま、その間に生まれた小夜子、と一気に登場人物が増えて、観客の頭をぐちゃぐちゃに掻き回してくれる。

 原作ではじっくりと説明してあるので、難解だけど何とか分かるのだが、映画では特に詳しい解説もないまま進むので、ちょっと不親切だ。


 ちなみに原作では、妙子の名前は「おこま=駒子」になっていて、これが辰五郎のメカケの「おたま」と紛らわしくて、何回読んでも混乱してしまう。

 辰五郎は死に、他の人物の行方は知れず、何とか所在の分かるのは「おたま」と言う女性だけらしい。
 どうでもいいが、このおばあさんの抱いている子猫がふわふわしてとても可愛いのだ。ホンの一瞬しか映らないけど。
 監督の趣味か、斉藤さんの綺麗な足首ショット。
  
 そして、劇中で最も美しいシーン。夕焼けをバックに、ふたりが語り合う。
 金田一「美禰子さん、分かります。分かります、僕にも良く分かります……あなた、大変なことをお聞きになったんですものねえ」
  
 金田一「でも僕は、どうしてもおたまさんという人に会ってみたいんです……しかしこれから行く福原と言うところは……」
 美禰子「先生! あたくしも参ります、どんなところでも構いません、連れてってください」
 美禰子「あたくしも、おたまさんという人に会って、何もかも知りたいんです」
 で、こちらがそのおたまさん。オバQではなく、京唄子さんである。

 彼女の言によれば、小夜子はおたまの娘ではなく、辰五郎がどこからか貰ってきた子供らしい。そしてその小夜子こそ、辰五郎にとっての金蔓だったとおたまは睨んでいた。
  
 美禰子はここでも、金田一の横にいるだけで、台詞はない。

 映画ではトントン拍子に手掛かりが得られているが、原作では刑事があちこち駆けずり回って散々苦労して情報を得ている。
 おたま「そやけどこの子、ホンマにいい子やでえ」
 話の合間に、美禰子の顎をちょっと持ち上げて顔を見るおたま。
 金田一「この子は違うんですったらー」
 慌てて間に入る金田一。

 最終的に、妙子が妙海尼と言う尼になっていることが判明。今度は彼女に会いに行くのだ。
  
 話を聞いた後、顔を見合わせる二人。生々しい話を聞いて、ショックだったのか美禰子の目が潤んでいる。
 金田一に背を向ける美禰子。
 いい表情ですね。
 宿に帰った美禰子、父の遺書を読んでいたが、布団に突っ伏せる。

 金田一は宿の女将から、椿子爵が淡路島へ行ったのではないかと聞かされる。
  
 その夜、美禰子はひとり例の廃墟へ来て泣いていた。
 金田一の姿を見て、涙に濡れた顔を上げる。しかし、キャプでは全然分からんな。
  
 美禰子「先生! 先生、どこかへ連れてってください! どこでもいいんです。遠いところ、誰も知らないところへ連れてってください! お願いします」

 斉藤さんの必殺「先生! と泣き叫んで抱き付く」攻撃がヒット。

 なおパンフレットによれば、この時の芝居で、斉藤さんの熱演のあまり、西田敏行の唇が切れてしまったとか。このシーンなのかどうか、はっきりしないのだが。

 金田一「落ち着いて、ね、落ち着いて」
 美禰子「嫌いーっ、みんな嫌いっ!」
 美禰子「子供を作って、お金を渡して……汚いわみんな! みんな汚い! うう、母だって汚い! あたくしの、あたくしのなかにも汚い血が流れて……
 石くれで地面を叩きながら、嗚咽する美禰子。
 いかにも貴族のお嬢様らしい潔癖な反応である。

 金田一「いや、それは違いますね。違いますよ。僕にだって流れてますよ、か、かなり汚いのが」
 美禰子「先生……うう……」
  
 金田一が顔を近付けるのだが、画面で見る限り、唇を切っているようには見えない……まあ、暗いから分かりづらいけど、アクシデントは別のシーンで起きたのか?

 金田一「美禰子さんお願いがあるんですけど」
 泣きながら金田一を見る美禰子。
 金田一「東京へ帰っていただけませんか?」
 美禰子「東京へ? 先生はどうなさるの?」
 金田一「僕もすぐに帰ります」
 美禰子「どこかいらっしゃるの? どこ? どこ行かれるんですか」
 金田一「言えないんです」
 美禰子「もし、あたくしがどうしても帰らないって言ったら?」
 金田一「僕、この事件から降ります」
  
 金田一の言葉に息を呑む美禰子。
 金田一は、これ以上ドロドロした人間の暗部を美禰子に見せたくないのだ。

 金田一「美禰子さん、ダメでしょうか、お願いします……東京へ帰ってください……お願いします」
 美禰子「はい、そうします
 金田一「はぁーっ、良かったぁ……」
 笑顔を見せる金田一。
 そこまではいいのだが、ついでと言う感じに金田一が「これ、消しときましょうか」と、椿英輔が刻んだ「悪魔ここに誕生す」と言う文字をガリガリ削ってしまうのは、さすがにどうかと思う。無論、それがあってもなくても事件の解決にはあまり関係ないのだが、重要な証拠と言うか、事件の痕跡なわけで、それを探偵が消すのはまずいだろう。

 原作では、何者かによっていつの間にか文字が消されてしまい、金田一が愕然とするシーンがある。
 美禰子「先生……ありがとう」

 ここで一旦斉藤さんは退場。

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 金田一は、椿子爵を淡路島へ連れて行った漁師に、話を聞きがてら彼も淡路島へ渡して貰う。

 で、その漁師を斉藤さんが出演中の「ゆうひが丘〜」の主演・中村雅俊が演じていると言うお遊び。後に、秋野太作もチョイ役で出ている。これは斉藤光正つながりでの友情出演だろう。パンフレットによれば、何でもいいから出してくれと中村雅俊が押しかけて出演が成立したらしいが、実際は映画会社の意向かな?

 ただ、このロケは実際は伊豆で行われていたようで、78年の11月5日から撮影していたらしい。公開は1月20日だから、かなりギリギリで撮っていたんだな。

 中村雅俊は軽い訛りで、椿子爵を連れて行ったことを金田一に話す。
 淡路島に渡り、あちこち調べて回る金田一の様子。
 その合間に、東京の闇市で、風間が椿子爵に似ている男を捜すシーン。
 背後に、雑炊屋のオヤジとして横溝正史、闇屋として角川春樹が特別出演している。

 また、「青春ド真中!」にもちょっと出ていた穂積隆信が出ている。
 風間は男を見付けるが、ちょっと油断した隙に逃げられてしまう。
  
 と、思ったら、また斉藤さん。さすがに出番が多過ぎでは? 他の俳優たちが不満に思うぞ。

 菊江「須磨から帰って本ばっかり読んでるのねえ。ウィルヘルム・マイステル……」
 菊江が彼女の本を取り上げるが、美禰子は無言で取り返して、読み続ける。
  
 さて金田一は、妙海の師にあたる慈道と言う坊さんに会っていた。
 演じるのは名優・加藤嘉。彼は、面白いことには横溝正史シリーズ版では、玉虫伯爵と言う正反対の役を演じているのだ。
 彼の口から、小夜子……妙子(妙海)の娘の父親が、新宮利彦だとあっさり明かされる。
 妙海の庵に向かう金田一。このシーンもなかなか美しい。
 しかし、金田一が嫌な予感に襲われて中に入ると、彼女は(もろもろの罪の意識に苛まれて?)首を吊って死んでいた。
 原作では、真犯人の送り込んだ刺客によって口封じの為に殺されたことになっている。

 うーん、しかし、今回の件で妙子自身にそれほど責任はないので、このタイミングで自殺すると言うのは少し変かな。

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 舞台は再び東京へ。

 以下、ネタバレあります。
 ちょっと分かりにくいが、どこからか自分の屋敷に帰ってきた様子の美禰子。玄関に続くスロープで、三谷昇の刑事と言葉を交わしているが、声は聞こえない。

 これは、椿家の人々がニセ電話や電報で呼び出されると言う原作のシーンをかなり大胆に省略して描いているのだ。
 「ただいまー」「誰かいないのーっ」と、元気良く屋敷内を駆け回る美禰子さん。
 だが、食堂にも何処にも家人の姿はない。
  
 台所のラジオがニュースを流しているが、使用人の姿もない。
 美禰子「誰もいないの? お種さーん」
 とりあえずラジオのスイッチを切った美禰子、背後に人の気配を感じて声を上げる。
 そりゃ、こんな濃い顔が間近にあったら驚くわな。
 美禰子「ふわぁーっ、びっくりしたぁ」
 三島だと分かって白い歯を見せる美禰子。
 三島「すいません、でもどうしたんですか? 早かったんですね随分」
 美禰子「あっ何か変わったことはなかった?」
 三島「いえ、別に」
 美禰子「はぁーっ良かったぁーあたくしね、途中で帰ってきちゃったの」
 言いながら、沸騰している薬缶に触り、熱かったので耳たぶをつかむ。
 美禰子「だって、おかしいんですもの。クラス会の相談はこの前したばかりなのに……それに目賀先生と菊江さんとばあやとあたくしと、四人いっぺんに電報が来てみんな出掛けるなんてどう考えても変でしょう?」
 三島「はあ」
 美禰子「ほんとに何にもなかった?」
 三島「ええ」
 美禰子「なあーんだぁー、じゃあ帰ってきて損しちゃったかしら」

 美禰子は学生時代のクラス会の相談で外出していたらしい。原作では、彼女は就職の相談でイトコの一彦(映画ではカット)と一緒に出掛けていた。一部、作為的に屋敷から遠ざけられていた人もいるが、映画のように全員ニセ電報などで外出させられていたというような不自然さはない。
 美禰子「はーっ、なんだかホッとしたら急にお腹が空いてきちゃった」
 カバンを振り回してくるっと一回転する美禰子。
 美禰子「あら、ね、どうしたのかしらこれ」
 テーブルの上に乗っているメロンに気付いて歓声を上げる。
 三島「ああ、さっき手に入れたんですよ、安かったもんだから」
 美禰子「ね、いただいてもいいわね、いいでしょう?」
 三島「どうぞ」

 当時、闇屋でメロンとか手に入ったんだろうか?
 美禰子は盆に載せて、それを母親と一緒に食べようと彼女の部屋へ向かうが、部屋の前に立っていたお種にやんわり押しとどめられる。

 美禰子「お種さん、どうしたのこんなところで……ふっお母様とふたりで……どうして?」
 お種「向こうで、向こうで召し上がってください」
 美禰子「どして?」
 お種「その方がいいんです。お願いですから」
 美禰子「変ね、変よ……」
 美禰子は、強引に部屋に入る。
 と、中から男の呻き声が聞こえる。
  
 不審に思った美禰子は、一旦部屋の外のお種を見る。
 お種の涙を見て、美禰子の瞳も動揺して濡れる。
 お種が去った後、部屋を覗くと、ベッドの上で乱れもつれている男女が……

 そう、美禰子の母・アキ子と、その兄の新宮利彦だった。
 「なんじゃこりゃああああっ!」と言うような顔になる美禰子。ガシャンとお盆を落としてしまう。

 つまり、この作品のモチーフは兄妹相姦と言う禁忌的なものだったのだ。
 ただ、このことは、原作では最後の最後でやっと明かされるものなので、この段階で美禰子や観客に暴露されるのはちょっと早過ぎる。
 ちなみにニセ電報の主は新宮利彦で、そうやって邪魔者を遠ざけて、妹とエッチがしたかったのだ。原作では、その他に、妹から宝石を巻き上げようと言う目的もあったのだが……。

 また、利彦の肩に占いの席に現れた火炎太鼓そっくりのアザが見える。それこそが「悪魔の紋章」だったのだ。もっとも、原作ではそのことは早い段階で金田一たちに示されるんだけどね。DVDにもそう言うシーンを思わせるスチールがあって、撮影はされたようだが、これまたカットされている模様。
  
 とんでもない秘密を知り、部屋でブルブル震える美禰子。
  
 この時、美禰子が遺書の挟んであった「ウィルヘルム・マイステル」を見るカットがあるが、これはその本の中に兄と妹がそれと知らずに愛し合うと言うプロットがあることに、彼女が気づいたからだろう。もっとも、自分は読んだことないので良く知らないのだが。
 椿子爵がその本を選んだのも、それとなくアキ子と利彦の秘密を示唆する意味があったのだ。

 その後、椿子爵そっくりの飯尾と言う男の他殺死体が警察に発見される。彼こそ天銀堂事件の真犯人で、そのことをネタに、椿邸の事件の犯人が飯尾に椿子爵が生きているかのような挙動をさせていたのだった。
  
 美禰子が真っ暗な自室に篭っていると、アキ子が入ってきて電気をつける。
 このシーンの鰐淵晴子はちょっと怖い。
 美禰子「出てらして! お願い、出てらして!」

 こういう時でも丁寧な言葉遣いをする美禰子さん。

 アキ子「あなたには分からないでしょうけど、私の体の中には蟲がいるの……」
 と言う表現で、自分が性欲旺盛なことを娘に説明する。そんな奴いるかぁ?

 原作では、娘に目撃されることはないまま、犯人に殺されてしまう。
 さらに、美禰子の父・英輔のチンコがいまいちだったなどと述べる。
 さすがに美禰子がたまりかねて遮る。
 美禰子「やめて……やめて! あたくしお母様のこと折角、好きになろうって努力してたの……やめてぇーっ」

 叫んで飛び出そうとする美禰子を呼び止め、アキ子は今後は鎌倉の別荘で暮らすつもりだと話す。
 別れを告げるアキ子だが、そこへまた例のフルートが聞こえて、娘に抱き付いて怯える。
  
 フルートの出所を探して、菊江と華子が庭の温室へ向かう。
 外は雨が降っていて、美禰子もコートを頭に被って、それに続く。
 と、フルートは温室の中の蓄音機から流れており、そこには利彦の他殺死体が……。

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 さて、少々長くなり過ぎたので、ペースアップ。
 温室から、なくなっていた風神像(それが凶器)が見付かったり、金田一が帰ってきたり、ニセ電報の主が被害者の新宮利彦だと分かったり、バタバタと進む。
 菊江と華子の会話。
 菊江「嬉しくないんですか奥様?」
 華子「何がですぅ?」
 菊江「犯人が分かって……」
 華子「それは嬉しいわ、でもあたくし、主人が死んだことの方がもっと嬉しいの」
 妖怪じみた笑みを見せる華子。怖い。

 原作だと、華子は椿邸では数少ない善良な人物なのだが。
 映画では、以前から利彦とアキ子の関係を知っていたようなので、この態度も頷けるけれど。

 その後、金田一が占いの席に現れた火炎太鼓のトリック、密室殺人の謎を等々力警部たちに解説する。ミステリーとしては一番盛り上がるべきところなのだが、正直、横溝作品としてはいまひとつのトリック(個人的には好きだけど)なので、見せ場にはあまりなっていない。一番驚くべき、アキ子と利彦の関係が先に暴露されているのも痛い。

 もっとも、金田一は犯人の名前はまだ明かさない。
  
 そこへ美禰子が飛び込んでくる。
 美禰子「仰ってください! あたくし、もう一度ウィルヘルム・マイステルを読んだんです、父が何故あの本を読めといったのかがやっと分かりました、どうぞ警察の方々に罪深いあたくしたちのことをお話ください!」
 美禰子「今更、今更隠せることようなことではございませんわ!」
 部屋を飛び出す美禰子。金田一が追いかける。
 美禰子「あたくし、天銀堂事件の犯人のこと、ラジオで聞きました」
 金田一「三島君たちのこと、どうして分かったんですか?」
  
 美禰子「あのことがあったから」
 ここで、さっきのアキ子と利彦の痴態を見てしまったシーンが回想される。
 「お種さんは、あたくしに、母の浅ましい姿を見せたくなかったんです……妹のあたくしに……先生! 助けてあげて下さい! 姉さんも、三島さんも! そして、母も」
 ここでまた、必殺の「先生!」抱き付きをする斉藤さん。

 映画では、お種は実は小夜子(利彦が妙子に産ませた子供)で、三島の妹と言うことになる。……あれ、だとすると、美禰子とお種が姉妹と言うのは変だなぁ。

 金田一は等々力警部たちと鎌倉へ向かうのだが、その車中で、ウィルヘルム・マイステルについての言及がある。
 ところで、さっき美禰子は父に読めと言われたと口走っていたが、劇中、そう言うくだりはなかったように思うが。原作では、父に読むよう奨められたとはあるけれど。

 この後、鎌倉の別荘で、三島とお種が自分たちの正体をアキ子に明かす。
 それによれば、お種(小夜子)のほうが、アキ子と利彦の子供で、三島(治雄)は新宮が妙子に生ませた子供らしい。だとすれば、美禰子とお種は、確かに異父姉妹になるわけだ。
 原作では、これが逆になっていて(つまり、三島が美禰子の兄)、また、既に小夜子は自殺してるんだけどね。

 この辺、原作を知らないと分からないと思うが、兄妹相姦の果てに生まれた治雄と小夜子が愛し合い、兄弟相姦が繰り返される言う悲劇となっているのだ。どうして分かったかと言うと、新宮利彦の例のアザが、治雄の体にもあるのを母親の妙子が見てしまったからなのだ。

 この、アザの形が遺伝すると言うのは、いかにも非科学的でこの物語の弱点になっている。
 それにしてもややこしいなぁ。

 なお、お種が小夜子だったという原作の改変は暴挙のようだが、実は小説の中にそう言う仮定が出てくる。金田一と出川刑事のやりとりで、小夜子が実は生きていて、それが菊江の場合、お種の場合というように考察される箇所があるのだ。映画のお種=小夜子と言うのは、そこから派生したものだろう。

 いろいろあって、アキ子は自ら飛び降りて死に、お種、三島も自殺する。く、暗いなぁ。
 しかし、原作では小夜子がそのために自殺しているので、三島がアキ子や利彦を殺したいほど憎む気持ちも分かるんだけど、映画では、小夜子もちゃんと生きてるからなぁ。うーん。

 いささかしつこいほど、ここでも斉藤さんのカットが挿入される。
  
 自分の部屋で、「悪魔が来りて笛を吹く」のレコードをかけている。
  
 警察が駆けつけるが、全ては終わっていた。砂丘を越え、金田一は毒を仰いで死んでいく三島とお種のそばへ歩み寄る。
 三島「椿さんには本当に済まないことをしたと思っています……これ、これ(黄金のフルート)をお嬢様に……淡路島の母は?」
 金田一「会いました。とてもお元気でしたよ」
 優しい嘘をつく金田一。そう言えば、映画の設定では妙海は彼の母親になるので、殺させる訳はないか。
 三島「あ、ありがとうございました」
 息絶える三島(治雄)。

 なお、原作ではこの「悪魔が〜」の曲そのものが犯人を示す手掛かりになっているのだが、前述したように全てカットされている。

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 事件は終わったが、エピローグにはまたまた斉藤さんが出てくる。

 斉藤光正監督、よっぽど斉藤さんに惚れてたんだなぁ。
 淡路島へ渡り、妙海尼の墓だろう、手を合わせている美禰子。
  
 続いて、妙海尼の庵の障子を開ける。だが、金田一は「美禰子さん」と呼びかけ、
 そっと障子を締める。
 暗い忌まわしい過去は忘れてしまいなさいと言う、金田一の優しさが滲み出ている好きなシーンだ。

 もっとも、原作では一彦や華子など、美禰子には心許せる家族がいるのだが、映画では誰もいないので、ちょっと美禰子のことが心配になる。
  
 埠頭にやってきたふたり。
 美禰子「先生、さきほど、何心配なさったんですか」
 金田一「ああ……」
 美禰子「あたくし、だいじょうぶです。そんなに弱くありませんわ」
 金田一「はぁ、良かった。さすがだなぁ、若いし、賢いし、それに……綺麗だし」
 美禰子「やぁだぁ、先生!」
 金田一「はっはぁ、笑った笑った、やっと笑った、初めて見ました」

 うーむ、美禰子さん、最初からかなり笑っていたと思うが……。
 美禰子「それより先生、早く乗らないと遅れますよ……九州へ行かれるんでしょう……淡路へ来る途中、九州九州ってつぶやいてらっしゃったでしょう」
 金田一「一人で帰れますね」
 美禰子「帰れますよーっだ!」
 おどけて答える美禰子。

 九州へ行くと言うのは、無論事件のためだろうが、金田一耕助が九州へ行くと言うのは新鮮な発想である。
 ただ、折角美禰子が正式に依頼していたのに、石坂金田一でお馴染み、報酬のことが出てこないのがちょっと残念だ。
  
 ここでも、監督の拘りか、斉藤さんの足首が映る。手を振る美禰子。
 しばらく佇んでいたが、
  
 意を決したように駆け出し、坂道を登り、
 しっかりと足首も映しつつ、
 丘の上に立ち、泣くのを堪える表情になる。
  
 美禰子「さよなら、ぐすっさよなら先生、さよぉーならーっ、金田一先生、さよぉならぁーっ」
 涙を拭いつつ、金田一の乗る漁船に叫ぶ美禰子であった。
 その船を小さく映しつつ、「終」である。

 くぁー、想像以上に斉藤さん出番が多いので疲れた。

 レビューして改めて気付くが、ほとんど、西田敏行と斉藤さんの二人芝居のような映画だった。斉藤ファンとしては嬉しいが、金田一ファンとしてはそのために映画全体のバランスがいびつになっているのは残念なので、痛し痒しである。

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 ● DVD収録のスチールには、
 中村雅俊と、金田一&美禰子が一緒に映っているシーンがある。最初は撮影とは関係ない、スナップかと思ったが、美禰子の服装からして、二度目の淡路行きだと思えるので、たぶん、中村雅俊がふたりを乗せていくシーンが撮影されたけれど、カットされたのだろう。確信は持てないけど。
 どっちにしろ、撮影現場で「あさひが丘〜」での教師と生徒役の中村雅俊と斉藤さんが顔を合わせたのは確かで、斉藤さんも嬉しかったことだろう。

 ●パンフレットの斉藤さん関連の記事抜粋

 ★「友子」は「とも子」になりました。

 人気上昇、ヒロインの美禰子役の斉藤友子は、映画初出演をきっかけに、斉藤とも子と改名する。
 ある人に占ってもらったところ、「とも子」に改名すれば大女優になれる運勢があるそうなのだ。初の大役、気分も一新、
斉藤とも子は79年のニューアイドル。

 斉藤とも子(高岡健一・ジャーナリスト)

 初めて逢った時の爽やかな笑顔がとても印象的だった。
 「悪魔が来りて笛を吹く」は、題名が示すように横溝作品特有のドロドロした怨念の世界の映像化だが、相つぐ陰惨な出来事に息をつめる観客は、彼女の心を洗うような清冽な笑顔にホッとするだろう。彼女が女優の道を選んだのは「テレビや映画を見ることで私自身励まされ、勇気づけられた経験があるので、女優って素敵な職業だなあって思ったからです」
 小学六年の時に母を失い、まだ義務教育も終わらない年齢で、父や妹のために炊事や洗濯をしなければならなかった。ちっちゃな肩にのしかかる生活の重味に泣きたい時もあったはず。それをわずかにテレビや映画で慰めていたのだろう。が、本人は「辛いとか苦しいって思ったことはありません」と笑う。そんなシンの強さ、明るさが、彼女の笑顔を爽やかなものにしているのだろう。
 それだけに仕事にも一途なところがある。撮影中、金田一耕助役の西田敏行とのカラミの場面で、演技に熱中するあまり、相手の顔に激しく頭をぶっつけ、相手の唇を切ってしまった。もちろん彼女は気がつかない。相手も我慢して演技を続けたので、とうとう最後まで彼女は気がつかず後で報されて「どうしましょう」と身をよじった。ゆとりのなさと責めることもできるが、彼女の仕事へのひたむきさを嘗めるべきだろう。